dogwood008の開発メモ!

最近のマイブームは機械学習, Ruby on Rails。中でも機械学習を使った金融商品の自動取引に興味があります。

DQNで機械学習した人工知能がBitcoinをシストレして月700万円儲けるまでの話(失敗)

普段は プログラミング教育サービス N予備校 のバックエンドを担当しています。 ブログの賑やかしのためだけにQiitaの記事を転載します。

qiita.com

TL;DR

  • Bitcoinの過去の値動きを機械学習させた
  • 学習済みモデルを使用して、エージェントにシステムトレード(コンピュータによる自動売買)をさせた
    • 現実の通貨ではなく、シミュレーション
  • 訓練データの2017年9月の1ヶ月での損益は、 +714.0万円
    • 上昇相場(2017年8月)では +3577.7万円
    • 下降相場(2017年3月)では -44.0万円
  • 結論としては、今回の試みは失敗
    • いくつかの要因が考えられる

下図は、その時点での損益(緑色、左軸)その時点でのBTCJPYの値(青色、右軸)をプロットした図です。本記事で紹介した手法で学習したエージェントがシステムトレード(自動売買)した際のシミュレーション値です。 f:id:dogwood008:20171220121147p:plain

免責事項

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• 本記事の内容は、機械学習に関する情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。
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機械学習の知識は0から始めた

大学で少しかじっていたので、0からというと若干大げさですが、あんまり覚えていないのでほぼ0からでした。いろんな本を読みまわったり、オンラインの学習コースを受講したりしました。個人的にわかりやすかったのは以下の2つです。

まだまだ勉強途中のため、本記事には誤りが含まれるかもしれません。その際はコメントでご指摘いただけると幸いです。

DQNの使用

概要

このシステムトレードを行うエージェントには、DQN (deep Q-network) と呼ばれるものを使いました。詳細はここでは述べませんが、ざっくりいうと、以下のような特徴があります。

  • Q学習という手法がある
    • 強化学習の一種で、学習時に教師データを与えない
      • ある 状態 のときにある 行動 を取った時にどのような 報酬 があるかをエージェントに教える
      • これによりコンピュータが自分で学習する
      • 状態 行動 報酬 はQ学習における用語
    • もっと詳しく知りたい方は、文末の参考文献をご覧ください
  • そのQ学習と深層学習を組み合わせたものがDQN
    • 例えば、ブロック崩しのゲームであれば、その画面を入力に使える
    • 「何が自機で何が敵で、何がブロックなので壊せて…」というように、環境に関する情報を与えない
  • よくわかんない人は、「機械学習のやべーやつ」と思ってもらったらOKです

DQNを選択した理由

教師データの付与が不要な点、実際にFXで行われた(Deep Q-LearningでFXしてみた)方がいらっしゃった点、名前がおもしろいなと思った点です。

また、本内容はドワンゴ社内エンジニアLT大会(社外向け)で発表しました。その際に仮題の提出を求められ、ちょうどDQNの勉強をしていたため、「仮だし、DQNで~ってつけておくか」としてしまいました。それがそのままconnpassでの発表タイトルとして出てしまったので、勝手に変えてしまってはDQNでの自動取引を目当てに来ていただいた方に失礼と思い、そのままDQNで進めました。

機械学習に使用したもの

ヒストリカルデータにはcoincheckのBTCJPYの値を使用しました。 2017年9月1日~9月30日の1分足がkaggleで配付されています。 これを1時間足へ変換し、各足の終値の値をその時のBitcoinの売値/買値としました。

下記の図は、使用したヒストリカルデータをグラフに起こしたものです。x軸は日時、y軸はその時のBTCJPYの値です。y軸の単位は万円です。

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ソースコード

自動取引のシミュレーションを行うエージェントについては、実はFX用に作っているものがありました。今回はそれをBitcoin用に一部改造して使いました。 https://github.com/dogwood008/DeepFX

GPU付きのインスタンス

Paperspace (非アフィリンク)でインスタンスを借りて使いました。その時の詳しいやりかたは クラウドでGPUを使った機械学習を安価で行う(Paperspace)をどうぞ。

機械学習にかかった時間

1日くらい。学習で与えるデータを1ヶ月に絞ったのは、これを短くしたかったため。インスタンス借りている間はずっと課金され続けるので、学習時間が短くすむようにしました。

シミュレーション

条件

以下の条件のもと、前述のヒストリカルデータを使用して学習を行いました。

  • ヒストリカルデータについて
    • ある時点におけるBitcoinの売値、買値は同一
    • スプレッドは存在しない
    • 手数料も0円
    • Bitcoin取引の利益にかかる税金は、源泉徴収されない
      • =取引の際に税額が天引きされない
    • エージェントは直近48時間分のBTCJPYの値を参照できる
      • 未来の値は(当然だが)参照できない
  • 報酬の計算式は次の通り
    • (その時点でのBTCJPYの値)*(保持しているBTCの数)+(手持ちの現金)-(初期の現金)
  • 初期の現金は1000万円
  • 初期のBTC保持数は0
  • 取引は現物のみ
    • BTCを借りて売りから入ることはできない
    • 保持しているBTCの数以上は売却できない
    • 購入したら即座に現金が減少する
    • 売却したら即座に現金が増加する
  • 1時間毎に、売り、買い、保持のどれかをエージェントが選択する
    • 1度に取引できるBTCの数は10
      • そのため、エージェントがとれる選択肢は次の3つ
        • 10BTCを購入
        • 10BTCを売却
        • 何もしない

2017年9月(学習データ)

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左y軸(緑色グラフ)の損益の単位は 万円 右y軸(青色グラフ)のBTCJPYの単位は です。最大で-900万円程損失を抱えますが、その後700万円超の利益へ転じています。ただ、BTCJPYと報酬のグラフの傾きが同じで、少し不穏な空気を感じます。後述しますが、このときの悪い予感は的中します。

2017年8月(上昇相場)

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あれ?報酬(損益)のグラフは?と一瞬見失いそうになりますが、よく見ると開始直後に緑色のグラフがいて、あとは青色と同化していますね。上昇相場では報酬のグラフはぴったりとBTCJPYにひっついています。

2017年3月(下降相場)

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こちらも序盤は分かれていますが、ある時点から報酬とBTCJPYのグラフがひっついてしまっています。

考察

機械が学習したものは何だったのか

下図をご覧ください。赤いグラフが上にはねている部分が、「買い」の注文をしたところです。序盤に購入し、一回BTCJPYが下がったところで再度購入しています。(8月のグラフは一瞬下にはねており、そこが「売り」の注文をしたところですが、手持ちのBitcoinの数が0のため、注文が通りませんでした。)

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この結果を見るにあくまで推測ですが、機械が学習したのは 「序盤に適当に購入して、ガチホールドしておき、もしBTCJPYが下がればナンピン(※)しておけば適当に儲かる」 ということなのではないかと思います。私が機械に期待していた取引は、「短期でBitcoinの売買を繰り返して利益を積み重ねる」ような動きでした。その観点からいうと、今回の試みは失敗だったということになります。

※ナンピン…この場合、BTCJPYの価値が下がった時に再度購入することで、BTCの平均取得価格を下げることをいいます

「Bitcoinのシステムトレードを行うエージェント」という題材

今回学習に使用した1ヶ月のBTCJPYのデータは、Bitcoinの値動きを如実に表したもの、とは言えません。皆様がご存じの通り、現在のBitcoinの価格は暴騰した後、乱高下しています。したがって、それを1月でぶつ切りしたものを学習してもBitcoin取引のためのデータとしては適切ではありませんでした。

一方、株やFXを考えてみましょう。株は平日の09:00-15:00(うち、1時間昼休み)、FXも土日を除く早朝〜深夜までです。つまり、どちらも5営業日の後、取引が停止されます。未検証なので、確実なことは何も言えませんが、周期性のあるデータ、例えば1週間、1ヶ月、1年等のヒストリカルデータを使って学習すると、異なった結果が得られるかもしれません。

今後の課題

Bitcoinだけでなく、株やFXでも試行してみたいと思います。また、前述したとおり、1ヶ月だけではなく、周期性のあるヒストリカルデータで試験してみたいです。

今回はDQNを使用しましたが、それ以外の選択肢も考えるべきです。また、モデルに関しても深く考察はできていません。どこかの記事で、DQNとLSTMを組み合わせる、といった手法を目にしたので、可能ならチャレンジしたいと思います。

参考にさせていただいたサイト、記事